アメリカぷるぷるアート観光 Altruart in America

ニューヨークより心が震えるアートの紹介。障害とアート/アウトサイダーアート/アールブリュット/現代アート/NPO団体/アートフェア/美術館/おもしろグッズ etc.

世界最先端の広告代理店 R/GAのアートコレクション

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ニューヨークの中心地マディソンアベニューにあるIBM社の受付ロビーには、村上隆さんの「And Then x6」が展示されています。またウォール・ストリート・ジャーナル (The Wall Street Journal) のビルの入り口付近には、新進アーティストの作品を展示する壁面があったり、Canon USAでは社員の写真作品から新進作家の絵画まで展示していたり、ゴールドマン・サックスでも、最新の現代アーティストの巨大な作品が飾られていたり。

このようにアメリカでは芸術を支援する企業が多く見られます。ただ支援するというだけではなく、その企業によって作家や作品の選び方も様々で、その企業カラーを伝える重要な一面もあります。

そんな中から本日ご紹介するのは、アール・ジー・エー(R/GA)という広告代理店のコレクションです。

この会社は世界最先端の広告代理店(広告業界の人に言わせれば、広告代理店とは名付けてはいけないほどのスーパーエクセレントカンパニー!)で、業界内にて知らぬ人はいない有名企業。

 実はこの会社のファウンダーでCEOでもあるロバート(ボブ)・グリーンバーグ(Robert Greenberg) さんはアウトサイダー・アートやフォークアート等の有名アートコレクター。また、彼は雑誌ロービジョン (Raw Vision)の理事メンバーとしても知られています。

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先日のアウトサイダーアート・フェアにて、ボブさんとリコ・マレスカギャラリーのフランク・マレスカさんと。 

因みにR/GAは昨年から新しいビルに移転したのですが、その前のオフィスへも5年ほど前に訪れました。(遠足に行ってきたようなブログですが、どうぞ広い心でお読みください。)

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新しいオフィスの入り口に入った途端、風通しの良い吹き抜けの空間が広がっていました。それに加え、端々に新しい試みがされていて、建物だけでも見にくる価値がありそうです。

そんな素敵なオフィスを案内していただいたのは、R/GA専属のキュレーターのローラさん (Laura Wiley-Donohue) と、ご自身がアーティストでもあるアナベル (Annabel Ruddle) さん。専属のキュレーターが複数人いることだけでも感動を覚えます。

写真の中でお二人が覗いているのはR/GAが開発したモバイルアプリ。会社最新情報だけでなく、ビルの中で気になった作品などを写真で取り込むと、その詳細が画面に表示され流ようになっています。冒頭の写真では、所蔵のカルロ・ツィネッリ(Carlo Zinelli) の作品が。

アプリは下記からダウンロードできます。(配信サイトの米国アカウントが必要かもしれません)

これをダウンロードすると、リアルなR/GAとそのコレクションをモバイル上で体験できます。

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しっかりとダウンロードを済ませてから、社内探検へ。

f:id:artinamerica:20170329024930j:plain個人の使いやすいようにテーブルの高さが調整可能。働いている人も皆個性的。

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オフィスに感激しながらも、すぐに壁中を埋め尽くすアート作品に目がとまります。手前の影で目立たず佇むのはサンフランシスコの障害者施設に所属していて近年亡くなった、ダウン症のアーティストジュディス・スコット (Judith Scott) 。 

 

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そしてその奥に見える壁面は、入り口のすぐ横のスペース。建物は左翼と右翼に分かれていて、こちらは向かって右翼側。現在日本で大回顧展が開催中のアドルフ・ヴェルフリ (Adolf Wölfli)を始め 、ビル・トレイラー (Bill Traylor) 、マッジ・ギル (Madge Gill) 、ジョージ・ワイドナー (George Widener) 、オーギュスタン・ルサージュ (Augustin Lesage) 、アロイーズ・コルバス (Aloise Corbaz) など。

中央の青いカレンダーのように見える作品は、ジョージ・ワイドナー。彼については以前フランスの番組アルテ (arte) で特集されたものをブログに書いています。

また、アド・ウィーク (ADWEEK) という広告代理店マン必読サイトで、ボブ・グリーンバーグさんのコレクションが特集された際、ジョージ・ワイドナーについて次のように語っている文面がありました。

"He has the same characteristics as Rain Man, so he uses numbers and dates" in his artwork, Greenberg explained.

彼はレインマンと同じキャラクターなんだよ。だから、いつも数字と日付を作品に使うんだ。
A Rare Look at Bob Greenberg’s Collection of ‘Outsider Art’ – Adweek

 

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こちらは入り口の左翼側。サム・ドイル (Sam Doyle) 、ウィリアム・ホーキンス (William L. Hawkins) 、ハワード・フィンスター (Howard Finster) 、カルロ・ツィネリ (Carlo Zinelli) など。 

 

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A Rare Look at Bob Greenberg’s Collection of ‘Outsider Art’ – Adweek

同アド・ウィークの記事内で、ボブさんは一番右上にあるハワード・フィンスターについても触れています。

セルフトート・アーティストのハワード・フィンスターはジョージアの詩人でラジオのブロードキャスターでした。1976年に神により彼に自分のみた多くの宗教的なビジョンを描きなさいとの掲示に従い制作活動を始めました。この作品は1982年に完成されたもので、ボブ・グリーンバーグ氏も讃えるそのビジョンの例です。フィンスターは実際この作品に、「私はハワードである。そして、私は自身の背中に世界の重みを感じている」と書いています。

 

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壁中の右上あたりには、オーストリアのアーノルフ・レイナー (Arnulf Rainer)とヨハン・フィッシャー (Johann Fischer) のコラボレーション作品があります。さんざん図録で眺めていた作品が、まさか目の前10cmでさらりと飾られているこの感動。正直カメラの手が震えました。

 

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部屋中のあらゆるところに、整然と展示された作品群が。

こちらはアンティークの聖像を集めたもの。

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私が小躍りしながら館内を回っていると、聞き覚えのある音が。

 

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なんと、卓球。ここで!?

と、目を疑いつつも、先ほどのアド・ウィークのインタビューで、新しいオフィスに移るにあたりボブ・グリーンバーグさんが話していたことが頭に浮かびます。

The goal, Greenberg said, isn't just to decorate R/GA's new office, but to integrate the collection into the space as an expression of the agency's culture, which is itself a bit outsider: pioneering, edgy, untraditional. "I'm trying to make this place not look or feel like an attorney's office," Greenberg said. "One of the big things we'll do to make us not an insurance company is the art collection." 

ボブ・グリーンバーグ氏は言う。目標は、単にR/GAの新しいオフィスを飾ることではなく、ちょっとアウトサイダーで、パイオニアで、エッジーで、トラディショナルではないと言うこのエージェンシーの在り方として、このスペースにこれらのコレクションを統合させることなんだ。私はこの場所を弁護士事務所みたいな感じにならないようにしているんだよ。自分たちをまるで保険会社みたいになら異様にする大きな要素の一つが、このアートコレクションなんだ。

http://www.adweek.com/brand-marketing/rare-look-bob-greenbergs-collection-outsider-art-168222/

確かにこのお兄さんたちは、知的財産を専門に取り扱う弁護士の様にも、保険会社のドサ回り営業の人の様にも見えません。ボブさんの心意気は、彼らの知らぬところで、彼らのクリエイティブでエッジーな精神にジワリと伝播しているに違いありません。

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その姿勢が結果に表れているような、右端と手前にずらりと並ぶ世界各国の広告賞のトロフィー。壁面真ん中にあるのはボブさんの顔のアップの肖像画。

 

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社内のあちらこちらに

 

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フリードリヒ・ゾンネンシュターンがあったり(涙)

 

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本物です。

この近くで卓球、する!?

 

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こちらもゾンネンシュターン

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ビビアンガールズたちが勢ぞろいするヘンリー・ダーガー (Henry Dager)。この作品もアド・ウィークの記事で紹介されています。

Darger frequently worked on both sides of his paintings, and Greenberg has chosen to hang this scene outward for the sake of his employees. "It's pretty violent on the other side," he said.

ダーガーはよく紙の両面に絵を描いているのだが、グリーンバーグ氏がこの絵のこちら側のシーンを展示したのは、彼の従業員のためなのだそう。「この絵の裏側は、とても暴力的なものなんだよ。」と彼は言った。

A Rare Look at Bob Greenberg’s Collection of ‘Outsider Art’ – Adweek

この額はそのままひっくり返すと裏側もガラスが貼ってあり、好きな方を展示できるようになっているのですね。こちら側は割と温和な方なのですが、裏面は残酷なシーンが描かれているのだそう。

 

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こちらは、企画展で使用したいとの貸し出し願いがきても、これを我が社の壁から外すわけにはいかないと断ったことがあるという、アロイーズの超大作。美術館レベルです。

 

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さらに巨匠の作品ばかり集めているわけではなく、中には日本の作家の作品も。

これからより多くの日本の作家の作品も展示されることでしょう。

 

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社内はアール・ブリュットだけでなく、歴代のマックや携帯電話から、階下に並ぶドゥカティのコレクションまで。整然と陳列される様子はまるでショールームの様でした。

ボブさんのコレクションはこれでは収まりきらず、専用の倉庫に保管してあるのだそうです。自宅にも相当の数の作品を飾ってあるとか。

ブログに載せた写真は、これでも実際の極一部なので、いつか訪れる機会を得た方は、その他の作品群を存分に楽しめるはず。正直、マンハッタンでこれだけの種類が常設しているのは、他にないのではないでしょうか。

以前オードリー・ヘックラーさんの自宅のコレクションを見る機会にも恵まれましたが、コレクターの皆さんに共通して、その方こそが作品になるような濃さと個性があふれているのでした。