アメリカぷるぷるアート観光 Altruart in America

ニューヨークより心が震えるアートの紹介。障害とアート/アウトサイダーアート/アールブリュット/現代アート/NPO団体/アートフェア/美術館/おもしろグッズ etc.

25周年記念【アウトサイダーアートフェア ニューヨーク Outsider Art Fair NY 2017】

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昨年は豪雪により2日間ほとんど来客がないというアクシデントもありましたが、今年は全日晴天に恵まれたOutsider Art Fair New York 2017 (1月19日 - 22日) 。

アウトサイダー・アートフェアというのはその名の通り、主にアウトサイダー・アート、アール・ブリュット、セルフ・トート、フォーク・アートと呼ばれる作品が並ぶ展示会です。2012年にフェアを買収したアンドリュー・エドリン (Andrew Edlin) さんの活躍で、年々より多くのメディアにも取り上げられています。

トップ画像は25周年記念のエドワード・ゴメス (Edward M. Gomez) による特設ブースにて。

日本語も堪能なエドワードさんは、数々の日本のアート展の審査員も務めているので、ご存知の方もいるのでは。彼はマルチリンガルのジャーナリストで作家で批評家でグラフィックデザイナーでキュレーター。ニューヨークタイムズ紙、タイム紙、アートインアメリカを始め、数々のメディアに寄稿する神出鬼没の自由人です。

今年の参加ブース数は、前年を10軒ほど上回る約70軒。来場者数約1万人。

他のアートフェアと比較するとその規模感がわかりやすいでしょうか。

たとえば世界的にも有名でニューヨーク最大のアートフェアである「アーモリー・ショー 2016」では、出展数約200軒、来場者数約6万5千人。

日本最大のフェア「アートフェア東京2016」では、出展数157軒、来場者数約5万6千人。

参考までに売り上げ比較も。

2004年のアーモリー・ショーの売り上げは43億円前後。リーマンショック前の経済最盛期の2008年では、85億円を記録(出典: The Huffington Post)。

アートフェア東京の2016年の売り上げは11.6億円(出典:アートフェア東京)。

東京のフェアもなかなかの規模ですね。

ただ特筆すべきなのは、アメリカはこの規模(または中規模)のアートフェアが「全米中」にあるという点です。人口が東京に一点集中の日本とは根本から違いますね。

 

上記のフェアに比べるとお分かりの通り、アウトサイダーアートフェアの規模は比較的小さいものではあります。ただしニッチなジャンルだけあって来場者・コレクターの個々人の熱量が非常に高いのがこのフェアの特徴です。他のフェアでは「観光ついでふらりと来た」人も多いのですが、ここでは皆一様に、この一筋縄ではいかないアートのファンで、その昂ぶるエナジーとシナジーが至る所で交錯し合う空気を感じることができるのが、このフェアの醍醐味と言えるでしょう。

 

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フェアの初日の会場時間を目指し、ウィンドウからブースの設営までが慌ただしく始まります。去年より恒例となりつつある、フリードリヒ・シュレーダー・ゾンネンシュターン (Friedrich Schröder-Sonnenstern) のキャラクターが入り口から登場します。ゾンネンシュターンについては日本語検索しても多くの情報が出てくるので割愛。

 

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ジェイムズ・バロン・アート・ギャラリー(James Barron Art Gallery

 

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カール・ハンマー・ギャラリー (Carl Hammer Gallery

 

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ウェスタン・エキシビジョンズ (Western Exhibitions)のブースではコートニー・クーパー (Courttney Cooper) の作品を展示中で、ラフに飾られた作品に目がとまりました。

 

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コートニーさんはオハイオ州のシンシナチにあるスーパーマーケットで働くかたわら絵画を制作しています。自分の記憶や過去の経験を投影させた故郷の地図をボールペンで描くドローイングのスタイルにこだわり、川、道路、空などの余白部分には、「Oktober Fest zinzinnati」「Skytop Pavilion」など彼の記憶から降りてくる単語や言葉、また建物の詳細で埋められていて、見るたびに小さな発見があります。

 

 

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入り口の準備が完了しました。6体のゾンネンシュターンが並ぶ迫力の入り口。

 

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初日から入場する人々の行列。

 

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チケット売り場で販売されるグッズも恒例化。昨年は同じキャラクターでピンクのトートでしたが、今年は青バーオジョンに加えてポーチまで。来年はオレンジといういう噂です。

 

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チケット売り場の手前には、シカゴにあるアウトサイダーアート専門のミュージアムintuit

ところで、この美術館のアドレスがhttp://www.art.org/なのですが「art.org」このようなアドレスよく取得できたものだと、いつも感心しています。

販売している冊子の濃さもさながら、よく見るとスタッフの方がビル・トレイラーのTシャツを着用されており、私もついつい購入しました。

 

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その隣はイギリス発のロー・ビジョン (Raw Vision) によるブース。ロー・ビジョン・マガジンは、セルフ・トート、アウトサイダー・アート、アール・ブリュットなどの作品を中心に取り上げる唯一のインターナショナルなレジェンド雑誌。手前にいるジョン・メイゼルズ (John Maizels) が1986年に発刊しました。隣は、私。ブース運営を担当しました。

 

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入場してすぐのブースは小出由紀子さんによるYukiko Koide Presents。キルティングのようにも見える2枚のコラージュ作品は、ジェシー・ドゥナフー(Jessie Dunahoo) によるもの。アメリカのドラッグストアでよく見かけるキッチンペーパーの袋やスーパーの袋などを縫い合わせてコラージュしてあります。キュレーターでパブリッシャーでもあるマシュー・ヒッグス (Matthew Higgs)が自身のインスタグラムで、「これらの作品はMoMAやホイットニー美術館などのパーマネントコレクションに収蔵されるべき」と絶賛。

 

www.instagram.com

他にもここ数年ハイパーアレルギーでも取り上げられて人気を博しているやまなみ工房の井村ももか (Momoka Imura) さんを初め、日本人勢の作品も展示されていました。

 

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こちらはファッションジャーナリストでエルメスなどのブランドのコンサルタントを務めるアレクサンドラ・セネス(Alexandra Senes) によるフランス発のファッションブランド・Kirometre Parisエル・ジャポンでも取り上げられていますが、フランスならではのアンティークリネンのシャツに、厳選した20数カ国にまつわる刺繍を施したもの。フェアの雰囲気がこの壁1枚でぐッと洗練されます。

 

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今回のフェアで私が気に入った作家のひとり、ウィリアム・A・ホール (William A. Hall) を展示するヘンリー・ボクサー・ギャラリー (Henry Boxer Gallery) 。左はギャラリーのディレクターであるヘンリーさん。

 

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写真はロービジョンマガジンの新刊より。20数年のホームレス歴を持つウィリアムさんの眼差しは印象的。全ての作品は彼の人生に起こったことを主軸に、景色や建物、また彼の妄想のデフォルメされた乗り物と融合され、描かれています。独特の淡い色使いと丁寧な筆運びはとても繊細。

展示されている作品はほぼ完売する中、私が最も気に入ったのはこの作品。

 

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この確立された特別な世界の景色の一部。美しいです。

 

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こちらは妄想の車。とてもユニークな形。

 

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Images by Alexander Gorlizki

こちらは、アーティストでもあるアレクサンダー・ゴーリスキー(Alexander Gorlizki) によるマジック・マーキングス (Magic Markings) のブースから。18ー21世紀のインドのドローイングを紹介。ディーラーのパッションと生き方までがブース中から伝わってくるようでした。私的に、今年のアウトサイダーアートフェアで最も印象的なブースでした。

  

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シャリグラム (Shaligrams) というビシュヌとそのアバターたちに捧げるヒンズーの聖石のチャート(右)。色彩とその配置の美しさが目を引きます。

 

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アメリカン・プリミティブ・ギャラリー (American Primitive Gallery) からは、ジェイ・ジェイ・クロマー(JJ Cromer) の作品が並びます。特徴的な線と色使いは益々冴えるばかり。初日から次々と売約済みのマークが。

 

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同ギャラリーより、ダニエル・マーティン・ディアズ (Daniel Martin Diaz)の作品。

 

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芸術家の家・グギング (galerie guuging) からは、レオポルド・ストローブル (Leopold Strobl) の作品。グギングはひとりの精神科医が1981年にオーストリアで始めた施設で、精神医学治療を受けながら共同生活を送る作家たちが芸術制作をしています。今回はリコ・マレスカギャラリー(Ricco Maresca Gallery) の協力でアウトサイダー・アートフェアに出展です。

この施設に入所するレオポルドさんは、35年を超える年月をひたすらアート制作に注ぎ込んできました。気に入りの新聞などの切り抜きをほぼ毎回同じ定形の紙に貼り付け、そこに彩色し、紙の余白にサインを。よく見るとハートマークの中に漢字の米という字が書いているように見えて、かわいらしい。

 

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白壁に映えるハワード・フィンスター (Haward Finster) とジョセフ・ノフ(Joseph Knopf) は 、アンドリュー・エドリン (Andrew Edlin Gallery) にて。

 

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アウトサイダーアートフェアのキャラクターにも採用されているゾンネンシュターンのこんな作品も。ギャラリー・アントワン・リッチフィッシュ (Galerie Antoine Ritsch-Fisch) より。

 

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この漫画は、シカゴの流しの音楽家でレコードコレクターで、セルフトートの作家だったフランク・ジョンソン (Frank Johnson, 1912-1979) によるもの。

彼は16歳の頃から漫画制作を密かに始めていましたが、彼の死後に彼の妻が発見するまで、誰も彼がこの126冊にわたる「Wally's Gang」シリーズを描き続けていたことを知りませんでした。

クリス・バーン (Chris Byrne) のブースのシンプルなスタイルが、この漫画集の異色な存在感を際立たせていました。 

 

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毎回強烈な個性を持った作品を展示し続ける、ステファン・ロマーノ (Stephen Romano) のブースにて、ヴィンセント・カスティグリア (Vincen Castiglia) の作品。

このセピア色のインクはなんと人間の血液が使われているのだとか。作家がブースにいらっしゃったのですが、実に稀有な存在感を放っていらっしゃいました。

 

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以前ブログでもご紹介したニューヨークに住むこのジャンルのアートの最大のコレクターのひとりでもあるオードリーさんに、作品を紹介するギャラリーディレクター。

オードリーさんのコレクションを紹介した記事:

 

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ミュージアム・オブ・エブリシング (Museum of Everything) の代表ジェームズ・ブレット(James Brett)。ミュージアム・オブ・エブリシングは2012年にこのフェアでブースを出したことがあり、今でも鮮明に覚えています。

アウトサイダー・アートフェア2012年のミュージアム・オブ・エブリシング:

 

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ロー・ビジョンのブースでインド人アーティストのプラディープ・クマール (Pradeep Kumar) の作品に驚愕する観覧者。マッチ棒や爪楊枝に彫刻を施した作品は緻密でキュート!

 

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いろいろな経緯があって、プラディープさんのお父様から直接この写真を送っていただきました。プラディープさんは、クラスの授業についていけず、ひたすらナイフで作品制作を続けていたのだそうです。

 

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アウトサイダー・アートフェアに参加する障害者を支援するバラエティ豊かなNPO団体のブース群のご紹介。

こちらはニューヨークのピュア・ビジョン・アーツ (Pure Vision Arts) 。個性的な作家が多く在籍しています。

ピュア・ビジョン・アーツ訪問記:ピュアビジョンアーツ(Pure Vision Arts) に行ってきた。

 

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同じくニューヨークのブルックリンにあるロックな団体、ランド・ギャラリー (LAND Gallery) よりマイケル・ペルー (Michael Pellew)の作品。

ランド・ギャラリー訪問記:Land Rocks Dumbo! ブルックリンのランドギャラリー(Land Gallery) - アメリカぷるぷるアート観光 Altruart in America

 

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こちらもニューヨークのファウンテン・ハウス・ギャラリー(Fountain House Gallery) より、アンジェラ・ロジャース(Angela Rogers) の呪術的なシンボルを潜ませた立体作品郡。

このギャラリーで以前私がキューレーションしたエキシビジョン記:マンハッタンで展覧会開催中です!9月4日まで。

 

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私が知る限りは初めてのアウトサイダー・アートフェアへの参加、サンフランシスコのクリエイティビティ・エクスプロード (Creativity Explored) から、ダニエル・グリーン(Daniel Green)。

この団体と商品化にまつわる記事:

サンフランシスコ国際空港でアート展「Art and Disability」アートと障害。写真レポ

Google セルフドライビングカー×障害のあるアーティストの作品 

サンフランシスコ発、入手困難な本格チョコレート

 

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同じくサンフランシスコからの参加、クリエイティブ・グロウス・アートセンター (Creative Growth Art Center) 。

 

数年前に他界した、このギャラリーで最も知られたアーティスト、ジュディス・スコットのブルックリン・ミュージアムでの展覧会記録:ジュディス・スコット Judith Scott 

 

魅力的な作品が並び、全てをお見せできないのが残念ですが、もう少しその一部をご紹介。

 

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 Anglasapura at ケビン・モリスギャラリー (Cavin-Morris Gallery)

 

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スティーブ・モーズリー(Steve Moseley)  at リンゼイ・ギャラリー (Lindsay Gallery) 

 

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ユージーン・フォン・ブルチェンハイン (Eugene Von Bruenchenhein) at フレッシャー・オルマンギャラリー (Fleisher Ollman Gallery)

 

f:id:artinamerica:20170212102433j:plain作者不明。ミシシッピー州で1910年に作られた木製の像 at スティーブン S. パワーズ (Steven S. Powers)

 

ブースを歩いて回った動画。

 

 

 

おまけ

 

 

過去のアウトサイダーアートフェアのブログ記事はこちら:

アウトサイダーアートフェア - アメリカぷるぷるアート観光 Altruart in America

 

(写真協力:Mayuko Fujino Paper Cutout Art)

 

 

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