アメリカぷるぷるアート観光 Altruart in America

ニューヨークより心が震えるアートの紹介。障害とアート/アウトサイダーアート/アールブリュット/現代アート/NPO団体/アートフェア/美術館/おもしろグッズ etc.

まるで美術館!ニューヨーク最大のロウ・アート・コレクターの自宅

©Ruby Washington/The New York Times, http://goo.gl/W5fa8n
※写真撮影不可だったため、ニューヨーク・タイムズ (The New York Times) から転載しております。
 

きーんと寒くよく晴れたその日、私はニューヨークのアッパーイーストサイドにあるラグジュアリーなビルの一室にいました。アウトサイダー・アートやアール・ブリュットといった作品のニューヨーク最大のコレクターである、オードリー・ヘックラー (Audrey Heckler) さんのお宅を訪問する機会に恵まれたのでした。

コレクターの拠点訪問といえば、以前にR/GAというデジタル・アドエージェンシー(広告会社)のファウンダー/チェアマン/CEOのボブ・グリーンバーグ(Bob Greenberg) さんのコレクションをお伝えしたこともありましたが、久しぶりの訪問ツアー。そして私はここで、今まで見たこともないようなよだれモノのコレクションに出会うこととなったのでした・・・。



©Ruby Washington/The New York Times, http://goo.gl/W5fa8n


オードリーさん
は人生のほぼ全てをマンハッタンで過ごしたという、超ニューヨーカー。(ニューヨーク特にマンハッタンは、東京の様に外部から来る人がとても多い場所なので、ニューヨークで育った人をちょっとくだけた感じの言葉で「ニューヨーカー」と呼びます。)また、話をしていた彼女の腕に「タイム・ウィル・テル(Time Will Tell) 」というニューヨークブランドの腕時計を発見し、これは本当に生粋のニューヨーカーだなと感心したものでした。そんな、大らかで博学でちょっと神経質そうな雰囲気を持ったオードリーさん。数時間にわたり、たっぷりと自分のことや作品についてお話伺えました。

彼女が初めてアウトサイダー・アートに出会ったのは、1993年のアウトサイダー・アート・フェアだったそうです。どこかでフェアのポスター広告を見た瞬間、「びびっ」ときて以来、アートの収集が続いたのだそう。運命の出会いだったのでしょうね。

【ご参照】アウトサイダー・アートフェアとは?

そして今はアメリカン・フォーク・アート。ミュージアム (American Folk Art Museum) とフィラデルフィア・ファウンデーション・フォー・セルフ・トート・アーティスト(Foundation for Self Taught Artists) ボードメンバーをされています。



©Ruby Washington/The New York Times, http://goo.gl/W5fa8n

コレクションの一つ、ストーン・エンジェル



事前にニューヨークタイムズ紙の記事は読んで予習していたので、どれほどの作品があるかは把握していたものの、実際のセレクションとその量を目の前にすると、もういちいち声にだして驚いてしまいました。美術館のコレクションの粋です。私が覚えている限りの作家を並べてみます。

アドルフ・ヴェルフリ(Adolf Wolfli)、ヘンリー・ダーガー (Henry Darger) 、フリードリヒ・シュレーダー・ゾネンシュターン (Friedrich Schroder Sonnenstern)、マルティン・ラミレス(Martin  Ramirez)、ユージン・フォン・ブルチェンハイン (Eugene Von Bruenchenhein) 、アロイーズ・コルバス(Aloie Corbaz)、 ジョぜフ・ヨアクム(Joseph Yoakum)、ネック・チャンド(Nek Chand)、ハワード・フィンスター (Haward Finster) 、ウィリアム・ホーキンズ(William Hawkins)、リツォーリ(AG Rizzoli)、オーギュスタン・ルサージュ (Augustin Lesage)、カルロ・ツィネッリ(Carlo Zinelli) 、マッジ・ギル(Madge Gill)、スコッティ・ウィルソン(Sotti Wilison) 、ルボシュ・プルニー(Lubos Plny)、アンナ・ゼマンコヴァ (Anna Zemankova)、ビル・トレイラー (Bil Traylor)、チャールズ・デラショー(Charles Dellschau) 、ジョエル・ローランド(Jo
l Lorand) 、ジョージ・ワイドナー (George Widener)、ヨハン・ハウザー(Johann Hauser) 、オズワルド・チルトナー(oswald tschirtner)、 ドワイト・マッキントッシュ(Dwight McIntosh)、 ウィリアム・ブレイネイ (William Blayney)、日本の作家だと、モンマ(M'onma)、ドイ ヒロユキ(Hiroyuki Doi)、寺尾勝広 (Katsuhiro Terao) 等々・・・・・・・。

・・・まるで索引を作ってる気分。もっとあったのですがこの辺でやめておきます。
この系統のアートの好きな方であれば、このコレクションの凄さが伝わるかとは思うのですが、さらに凄いのは、各アーティストのそれぞれの代表作(もしくはとてもレアな)シリーズの物ばかりが集められていること。
ムンクでいうなら叫びのシリーズが、ゴッホでいうならヒマワリと、かつマイナーだけど天才的なドローイングの作品までもが揃ってる・・・そんな感じです。もしもこの系統の美術の教科書を作るとしたら、ここで借りれば全部事足りる、そんな驚きのセレクションでした。


©Ruby Washington/The New York Times, http://goo.gl/W5fa8n

全部で7-8部屋あったでしょうか。まるでギャラリーの如く、全ての壁面にびっしりと上記の写真のように作品が飾られています。1部屋におおよそ50-100点はあったのではないかと思いますが、途中で数えるのも断念しました。部屋以外にも他に倉庫があるようで、そこに入っている作品も考えると相当な数のコレクションです。

同行した方が「初めて買った作品はいくらくらいの物でしたか?」と聞いたところ、「そんなにしない値段よ、当時の$5000(約60万円)くらいね。」とお答え頂き、はぁーーと溜息が出たものですが、特に奢る様子もなく素直に教えてくれるので、聞いていてすがすがしい思いでした。

またそれを聞きながら私自身が初めて買った絵のことを思い出していました。高校2年生の時に、若い現代アート作家さんから6000円で絵を買いました。当時にしてみれば、食べられもしない着ることもできない「絵」なんて物に6000円も使う自分に、相当ドキドキした覚えがあります。

 


©Ruby Washington/The New York Times, http://goo.gl/W5fa8n

落ち着いた赤色の壁のベッドルーム。そこにも沢山の作品が。思わず「本当にここで寝ているのですか?」と聞いてしまった程です。さらにオードリーさんがクローゼットを開けると、なんとそこにも、絵!「ここも服じゃなくて絵が入ってるのよ。変でしょう」と静かに笑う姿に、作品への深い思いを感じました。

彼女はこれまで多くの作品を購入してきましたが、実は一度も売ったことがないのだそうです。そして「自分の死んだ後のことを考えたら、この素晴らしい作品たちをどうしようか迷っているの・・・多分美術館に寄付するでしょうね。私の子どもたちにとっては全然興味のないものだから’。。。」と。私の頭には、佐々木芽生監督作品の映画の「ハーブ&ドロシー」がよぎりました。(生涯ずっと作品の収集を続け、一切売ることはせず、その4000点にのぼるコレクションを入場無料の国立の美術館に寄付した老夫婦の映画です。)

 


雑誌ロー・ビジョンの最新84号(こちらから購入できます)にも彼女の自宅の様子が掲載されています。これ最新号なので、最近のインタビューなはずなのですが、私がお伺いした時と、壁にはってある作品のセレクションが違うことに気が付きました。その時々でギャラリーのように展示を変えているのがよく分かります。

絵を買うって、なんでしょうね。私の兄が今1枚絵を購入したいらしく、私に連絡をくれました。玄関に飾るから本当に好きな物を選びたいとメッセージをもらった時には、とても嬉しい気持ちになりました!