私は固くて粉っぽい食べ物が好きだ。スコーンなんかは外側がカリッと粉っぽく焼けているだけで、おいしいと言う。味は二の次だったりする。
先日クリス・オフィリ(Chris Ofili)さんの展示会を見に行った時に、この作品を見つけた。象のうんこと人間の歯とクリスさん自身のドレッドでできた塊。客観的に結構キモい系なのは分かるのだが、見た瞬間無性に食べたくなってしまった。だって、かりっと粉っぽそうで、なんかおいしそうじゃない?
しかし残念ながら、このおやつはガラスケースに入れられていて近寄ることは許されなかった。ニューヨークのアート展示でガラスケースに入ってることなんて珍しいのに。きっと私と同じように、触りたいとか、ちょっと食べたいと思う人がいたに違いない。
近寄りたいのをぐっとこらえて、クリス・オフィリさんの展示会「NIGHT and DAY」を紹介する。
今回はしょっぱなからうんこ食べたいとかいってしまったので、このおしゃべり口調で通してみようと思う。
クリス・オフィリさんはイギリス生まれのナイジェリア系黒人の画家(決してうんこ専門立体作家ではない)。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート等の芸術大学で学び、ターナー賞を受賞し、アート界では若くして知られた存在だ。立派な学位もあり、障害があるわけでもない、全然アウトサイダーではないのだけど、つくり上げる世界や精神性がロー・ビジョン的な面があるので、このブログで紹介することにした。
会場はマンハッタン内にある、ニュー・ミュージアム (New Museum)。第55回ヴェネツィア・ビエンナーレでいわゆる”アール・ブリュット”や”アウトサイダー・アート”といわれる作品を起用したことで日本では有名になった、マッシミリアーノ・ジオーニ (Massimiliano Gioni)さんがディレクターを務めるミュージアムだ。ビル一本まるまる楽しむことができるので、モマとかメトロポリタン美術館はもう行ってしまったよーという方にも、ニューヨーク観光にお勧め。ソーホーにも近いから、プラダとかシャネルとか、そんな買い物をしたマダムにも寄ってもらいたい。
【ご参照】過去記事:ニュー・ミュージアム http://ameblo.jp/altru-art/entry-11305694004.html
入り口のガラスには、クリスさんのドローイングが印刷されていて、小さい顔くんが沢山!この細やかな演出に感心しつつ入場。
今回は某ギャラリーディレクターと一緒に行ったので入場料が無料になったんだけど、特に好きなモノを見に行く時には、ちゃんとお金を払いたいよね、と思う。百円でも自分が納得したものにお金を使う気持ちはとても大事だ。
まあ、今回は、払ってないんだけども・・・・少なくとも、このブログで紹介することで替えたいと思う。
クリス・オフィリ ナイト・アンド・デイ。とてもいいタイトル。まずは2階へ。
象のうんこでできた玊に、ビーズでマイルス・デイビスと書かれている。
実は全ての台座が象のうんこ。この台座には左バージン、右マリー。
タイトル「The Holy Virgin Mary(聖女マリア)」。そもそもこの作品がクリス・オフィリの名前を一躍有名なものにしたんだけど、見かけのホンワカさとは逆になかなか派手なストーリーがある。
「過激な展覧会」として美術界の歴史にも残る「センセーション(Sensation)」(1997-2000)というに出展されたのが発端。これはイギリスのサーチ・ギャラリー(Saatchi Gallery) が企画したロンドン・ベルリン・ニューヨークの巡回展で、イギリスの若手のアーティスト(YBA's)に焦点をあてたものだったが、当時連続男児誘拐殺人事件を起こしたマイラ・ヒンドリーの肖像が展示・襲撃されたり、このクリスさんの作品が「キリストの母のマリアは黒人だわ、象のうんこはマリアさまの胸にのっかってるわ、さらに台座はうんこだしバージンとか書いてるわ」と、大変な騒ぎになった。
さらに1999年のニューヨーク巡回の際、当時のジュリアーニ市長がこれを展示したブルックリン・ミュージアムを訴えるという事態に!アート作品上での解釈の1つなのにも関わらず、キリスト教を陵辱したという理由で、なんと市長は同ミュージアムへ支援していた7億円のドネーションを引き下げる裁判まで起こしていた。結局裁判ではミュージアム側の主張が通ったのだけど、日本人的にはかなりびっくりするような展開である。
その後フタを開けてみると、この展覧会に出展した作家達はこれを機に有名になり、作品の価格が跳ね上がることとなった。サーチ・ギャラリーはそれらのコレクションを売り、多大な利益を得たと言われる。
そもそも・・・・このサーチ・ギャラリーというのは、サーチ・アンド・サーチ(Saatchi & Saatchi) というイギリスの巨大な広告代理店の創業者の方割れが、個人のコレクションから初めたギャラリー。動物(鮫・牛・羊)などの死骸をホルマリン漬けにして展示をし、それこそセンセーショナルなスタートなったダミアン・ハーストなども、このYBA'sの出身だ。
鮫のホルマリン漬けをそのまま展示したもの © Damien Hirst and Science Ltd.
何が言いたいかというと、広告屋さんのサーチさんにとっては「クリス・オフィリが訴えられて有名になって価格上がります」的なシナリオを描くのはお手の物だったはず。きっと展覧会を開催する前から価格高騰を予測し、その売りさばき先も想定していたに違いない。ビジネスと政治がアートを繁栄させてきたのは疑いはないけれど・・・。でも、古代エジプト人なんかが壁画を書いた時にはそんな思惑はなかったよなあ、と、アートについてぼんやり考えさせられるものがあった。
それでもこうやって私がクリス・オフィリの作品をニューヨークで見て、うんこ食べたいとか思えるのも、その出来事があってのことなので、これにも感謝ということか。ふーん。
あれも
隣の部屋に移ると少し大きなサイズの作品が置かれている。南国・ジャングルを思わせる作品群。
部屋を抜けると、突然立体作品が。私はこれもクリス・オフィリの作品かどうか分からなかった。
でも、天使がものすごい勢いでキスをしているので、クリス・オフィリかもしれない、と思った。
グルの髪の毛はよく見たら小さい顔くんたちだった!ああ、みんな!
どうしても私の新しいCanonのカメラの性能がいいだけに(ふふふ)明るめに写っているんだけど、実際はもっと暗くて静かな空間。作品も最初の階にあったうんこの台座のものとは変わり、ペイントのみ。
しかし共通するクリス・オフィリの観念や世界の考え方というのが確実に見える。人々が妄信的に崇拝するものへの敬いと、それを別の角度から見た解釈、それらを含めて全て美しく表現するところ。受け取り方は人それぞれだとは思うけど、私にはそう思えた。
タイトル Cocktail Serenader 欲望、美しさ、みているこっちがドロドロになる。
タイトル Frogs in the Shade シェードのカエルたち。ああ、クリスさん、解説を私に。。
でも、本当に地球を癒やしている人って、きっとアマゾンとかアフリカの奥地とか地球のマグマの真ん中とかにいる、こういう人に違いないよな、と私には頷けるものがあった。
あまり食欲のわかなそうなお皿を発見したりした。
ビルのルーフトップでは外のテラスにでれたので、暮れゆくニューヨークをぱちり。
ぽっかり月もでて、今日も楽しい1日だった。