アルテというフランスとドイツの共同テレビ番組でアール・ブリュット/アウトサイダーアート関連の特集が放映されていました。(現在はこちらのYoutubeからまだ視聴可能です。)
番組のタイトルは「Quand la folie devient art」日本語では「狂気が常軌を逸したアートになる時」という感じでしょうか。番組の半分は草間弥生の作品や過去の生い立ちを追っていますが、もう半分は、度々このブログにも度々登場しているアメリカのジョージ・ワイドナー(George Weidener) さん、それから、ドイツ、ベルギー、フランスなどのアーティストを特集しています。アメリカぷるぷるアート観光的には、今回は特にアメリカ人のジョージ・ワイドナーさんを中心に、キャプチャーと補足画像で紹介します。(注:草間彌生については他でも情報は沢山あるので割愛。)
ジョージ・ワイドナー (George Widener)
ノースカロライナ州生まれ。日本のNHKの番組でも特集されたことがあるようで、ご存知の方も多いかもしれません。サヴァン症候群と診断されているジョージさん、作品を見てもわかるように、年・日・曜日それらの数字が画像や映像となって見えるのだそうです。例えばMarch(3月)であればこんな風に・・・
ジョージさんはそんなちょっと特殊な自身のビジョンに苦しめられながらも、作品を作り続けました。
何年先でも日付を聞くだけで、それが何曜日なのか、目に見えるようにわかるのだそうです。上の作品はFRIDAYと書いてあるので、試しに太めの点線で囲ってある日をオンライン曜日計算機で計算してみました。
2081年11月7日は・・・・
本当に金曜日でした!
小さい頃から神童と言われ、周囲から一目置かれてきたジョージさん。ただアーティストとして生きる以上お金の苦労もあり、「絵が売れた時は、生活の為に何年もとっておいたよ…」と、現実的な面も吐露。
立体作品も作ります。
これもまた、立体のカレンダーのようなもので、いつか必ずやってくる人工知能が座巻する未来のための機械なのだそう。
こちら作品は、ジョージさんのセルフポートレイト、自画像のようなもの。自分史で起こった出来事をカレンダーとして書き記してあるのだとか。フロリダで参加したコンテストの日のことから未来の人工知能を有した機械も描かれています。
これがその自画像の中に描かれた未来の機械のひとつ。2008年に稼動を開始したCERN(スイスのジュネーブ郊外にある素粒子物理学の研究機関)の発展形でしょうか。よく見るとDanger Science(危険な科学)という記述も見られます。マシーンの周りには大きく、
Nothing to worry about. A machine will help.
心配することは何もない、機械が必ず助けてくれる。
と書かれています。ジョージさんのこのマシーンへの信頼を感じます。
2040年までにはマシーンは人々の十分な頭脳になる、とジョージさんは言います。その頃には83歳なのだそうですが、それまで健康でいられるように、酸素をいれたテントでいつも寝ているようです。老化のプロセスに対抗する手段なのだそう。
なんだか楽しそうですね。
「曜日を計算できるだけ」であれば、さくっとオンラインで済んでしまう昨今ですが、こうしてそれを「作品として可視化してできる」ところにオリジナリティがあるのだと思います。人間曜日計算機 × アートのデュアルキャリアですね。何か1つだけコツコツやり遂げるもありですが、交差させることで生まれる味もある・・・個人的にも、人生の指針まで勉強させてもらえた気分です。
また、ジョージさんははっきりと「他の人が自分のことをフォローしようがしまいが、私には関係ありません。」と言っていて、これも心底気持ちのよい言葉です。
・・・ところで唐突ですが、
みなさんは人に嫌われるのが、怖いですか?
個人的な話になりますが、私はできたら誰にも嫌われたくないと思っていました。しかし、最近はそういうことも気にならなくなりました。
そこに費やす時間よりも、他にやりたいことがあるので、そもそもそんな暇がありません。人をアンチしたい方こそ、その力を己に向けて昇華させると、実はすごい人になるのではないでしょうか。 ジョージさんはまさにそういう1人なのだと思います。
このジョージさん、ニューヨークで開催されるアウトサイダーアートフェアにも度々来られているようで、そのうち遭遇することを楽しみにしています。
せっかくなので、他に紹介されていたヨーロッパ勢のアーティストの紹介も簡単に。実はこちらの作家さんたちこそ、ものすごいのですが。
パスカル・タッシーニ (Pascal Tassini) christian berst 所属。
1955年ベルギー生まれのパスカルさん。現在は洋服などのテキスタイルを使って対象物を執拗に縛り、結び、くるみ、作品を作ります。以前ブルックリン・美術館で展覧会も行われた、故・ジュディス・スコット(Judith Scott)さんの作品を連想しますね。
パスカルさんは、アール・ブリュットやアウトサイダーアートといった作品を展示する世界でも歴史が深い美術館「ローザンヌ・アール・ブリュットコレクション(Collection de l'art brut)」で2015年に個展を開催するなど、目立った活躍を始めています。彼の所属する施設に訪れると、Dr.タッシーに扮して色々案内してくれるそうなので、いつか行ってみたいものです。
そんなパスカルさんの作品はこちら
ハンス・ヨルグ・ジョージ (Hans-Jörg Georgi) Atelier Goldstein 所属
1949年フランクフルト・ドイツ生まれ。初めてこのギャラリーに所属した時は、突然誰も知らない環境に押し込められたせいで、身も心もうち崩れて落ち込んでしまったそうなのですが、次第に復活。現在はかなり精力的に作品を作っているようです。ボード紙を使って作る航空機の規模感とディテールを超えた躍動感は圧巻です。
ハンスさんの作品をギャラリーからお借りしようとしたところ、このギャラリーのホームページがとてもおしゃれ。アトリエの部分にカーソルをあてると、背景がハンスさんの作品です。
ハンスさんの作品たち。
ジュリア・クラウス・ハーダー (Julia Krause-Harder) Atelier Goldstein 所属
ハンスさんと同じギャラリーに所属する、ジュリアさん。1973年ドイツのクローネンバーグ生まれ。2012年より多くのエキシビジョンで作品を発表しています。彼女が使うのはよく荷物をまとめる時に使うバインダーの様なもの。(なんて呼ばれているんでしょうね、これ。)これを使い、鉄板を始め、様々なマテリアルを組み・繋ぎ合わせて彼女が執心する恐竜を作りあげていきます。その圧倒的な躍動感と存在感は、先ほどのハンスさんの飛行機とはまた全く違う迫力を感じさせてくれます。
インガ・モジソン (Inga Moijson) Beverly Kaye Gallery 所属
インガさんは1960年に生まれ、ブリュッセル周辺で育ちました。彼女にとって絵を描くという行為は、心の最深部分を表現する方法なのだといいます。彼女の絵を見る人には、この現実と同時に存在するパラレルワールドの仲間になることが許されるのだそうです。こういう絵のことをエログロカワイイというのではないでしょうか。一瞬かわいいいくて、でもちょっと悪夢のような、気味が悪いような、やっぱり気になって、見てしまう。そんな魅力があります。
インガさんのアトリエ。まるでシルバニアファミリーのおうち。
インガさんの作品は彼女のサイトInga Moijsonから沢山見ることができます。
映像の中では 、後半に紹介した欧州の作家が 所属する施設や、職員さんたちとの交流も見られます。とにかくこの施設のおしゃれさといい、広さといい、空気の澄んだ環境といい、ちょっと移住したくなるほどでした。
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