アメリカぷるぷるアート観光 Altruart in America

ニューヨークより心が震えるアートの紹介。障害とアート/アウトサイダーアート/アールブリュット/現代アート/NPO団体/アートフェア/美術館/おもしろグッズ etc.

湿ったおばあちゃんと写真。

ヘンリー・ダーガーの部屋の写真集をまた久しぶりに眺めていました。写真家の北島敬三さんとは、昨年ニューヨークで偶然お会いする機会に恵まれ、さらに思い入れのある写真集です。日本では展覧会も開催されていました。ご参考:写真展「ヘンリー・ダーガーの部屋」が新宿で開催 - 撮影は北島敬三 | ファッションプレス)

北島さんのような奇跡的な写真を撮ることは私にはできませんが、最近リコーのテータという写真デバイスで近所のセントラルパークで撮影をして楽しんでいたら、ふと空の写真で思い出す出来事があったので、ブログを書いてみることにしました。芸術はなんらか人の思いを補助することがあるのだな、と感じた出来事です。

私が高校生の時、ちょっとした怪我で入院したことがありました。今の所、人生一度きりの入院体験でした。2人部屋の隣のベッドには、70歳は超えているだろうと思われる女性。

初夏の気持ちの良い日だったので、部屋の窓を開けたくなり、窓側の彼女に断りを入れてから窓を開けました。想像した通りの気持ちの良い空だったので「おばあちゃん、空綺麗だよ」と伝えると、彼女は具合があまりよろしくないようで「体を起こせないし、空も見えないし」とブツブツと湿ったことを呟きました。

湿ってるなあと思いつつ(失礼な高校生でした)、私は手持ちの写真の中から、気に入りの写真をお菓子のビスコの箱にテープで貼り付けて、見えるところに置いておきました。「アスラン帝国」と名付けた自転車の背景に、綺麗な夏空の映った写真でした。当時なんの技術もないのに恥ずかしいことに写真を撮ることに凝っていて、色々自分なりの工夫をして写真をとっては自己満足に浸っていました。おばあちゃんはじっと写真を見て何かブツブツと相変わらず低い声で呟いて、ほのかに喜んでいるようでした。(ような気がしました。)

私の怪我は大したものではなかったので、その数日後に退院することができました。ついでに書いておくと、当時私はちょっぴりはねっかえり?で、看護師さんたちには随分ご迷惑をおかけしました。一時期入院に耐えられず、手術の翌日の夜更けに点滴の針を自分で外し(血が一筋吹き出して慌てました)、出入り口は施錠されているため、事前に昼間にこっそり1階の端の窓の鍵を開けておきそこから外に飛びおり、さらに植木の中に周到に隠しておいた服に、路上の木陰で入院着から着替え、狸小路という札幌の商店街にある映画館に行ったりしていました。友人を誘い出す時は、何か変なプライドがあって私が入院をしていることは隠していたので、痛む傷口を隠しながらなんとかやりきったことを覚えています。

ともかく、また塀をよじ登って病院に戻ると、案の定浅はかな脱走はバレていて、以来看護師さんからは厳重にチェックを受けるような体制になってしまいましたが、逆にみなさんと仲良くなり、退院時にはちょっとした寂しさを感じつつも、爽やかに病院を後にしました。

それから一ヶ月後くらいに、自宅に見知らぬ人から分厚い手紙が届きました。開封してみると、あの湿気ったおばあちゃんの娘さんからでした。湿気ったおばあちゃんは私の退院後、1週間くらいで亡くなったそうでした。(確かに日に日にお見舞いに来る人が増えているような気はしていました。)娘さんの手紙によると、私のあげた空の写真がとても気にいっていたようで、最後まで枕元にあったそうでした。それで彼女の心を支えた写真の主である私に、なんとかお礼が言いたいと、病院に住所を聞いて手紙を送ってきたという内容でした。私には彼女がその時そこまで気に入ったようには映らなかったので、とても驚いたとともに、こんなに感謝されるとは思いもせず、にわかに胸が熱くなるのを感じました。私の気持ちとしては、単に同室のおばあちゃんがそんなに湿っていては、こちらも過ごしにくいというくらいの気持ちでしたので。

また、今思うと、病院が私の住所をそんな簡単に教えてはいけないのですが、当時はそんなゆるい空気だったんでしょうね。

ともかく、アートともお世辞にも呼べないようなお粗末な写真でしたが、人の心はこうして乾く(癒る?)こともあるんだと体感した思い出でした。

 

最近も継続的にあちらこちらへ好きな作品を見に行ったり、好きなアートに関わることのできる毎日ですが、ブログを書く手が進みません。 なぜなら、ただのお知らせであれば、翻訳機能を使ってHyperallergic - Sensitive to Art & its Discontents  や、私も尊敬するハフポストの記者であるプリシラ・フランクさん Priscilla Frank | HuffPost などの記事で十二分に作品の良さや、最近の傾向を堪能できるからです。アウトサイダー・アート好きの皆さんは、彼らの動向をぜひチェックするのも、興味深い発見があるかもしれません。

話をヘンリー・ダーガーの写真に戻しますが、北島さんによるダーガーの部屋の写真は、一定分、私を落ち着かせる作用があり、これは他の写真では得難いものです。こういうものに出会った時は、自分がどうしてそう感じるのか、時間を使って考えるのも、きっと実りがあるのだと思います。

自分の考えていることも少しずつ盛り込んだ正直なブログがかけるといいな、と思っています。