アメリカぷるぷるアート観光 Altruart in America

ニューヨークより心が震えるアートの紹介。障害とアート/アウトサイダーアート/アールブリュット/現代アート/NPO団体/アートフェア/美術館/おもしろグッズ etc.

ヴィレム・ファン・ヘンク & ラルフ・ファサネラ at フォーク・アート・ミュージアム



アメリカン・フォーク・アート・ミュージアム (American Folk Art Museum) は、ニューヨークでアウトサイダー・アートやアール・ブリュット、セルフトート・アートを所蔵・展示する代表的な美術館です。以前MOMAに隣りのビルにあった時と比べると、敷地面積こそ小さいですが、展示は流石のクオリティを維持しています。今回の展示は、私にとっては思い出深い ヴィレム・ファン・ヘンク (Willem Van Genk) とラルフ・ファサネッラ (Ralph Fasanella) です(2014年9/10-11/30まで)

 




 




■ ヴィレム・ファン・ヘンク (Willem Van Genk) (1927-2005)


©Museum Dr. GuislainPhoto by Guido Suykens, Ghent

オランダ人アーティストのヴィレム・ファン・ヘンク 。2005年に既に亡くなっているのですが、生前にアウトサイダー・アートフェアにて1作品が約1千万円で販売され、生存するアウトサイダー・アーティストの最高価格を付けられたという記録があります。またアウトサイダー・アート/アール・ブリュットを紹介する世界屈指のロンドン発の雑誌 ロー・ビジョン(Raw Vision)からは 「Masters of Outsider Art」マスター・オブ・アウトサイダー・アート としても位置づけられたアーティストでもあります。今回は初の単独インターナショナル展となり、総点数40点以上にわたるパノラマ絵画、コラージュ、ドローイング、パーソナルノート、レインコート(彼の趣味でもあるコレクション)が楽しめます。

 



アウトサイダー・アート・フェアで1千万円で販売された作品 


ヴィレムには1920年代前半より精神障害がみられました。5歳の時には母親を亡くし、虐待癖のある父親と9人の姉妹と共に生活することになります。学校ではアート以外抜きん出て成績が悪く、特に数学ができないことが父親の気に食わず、虐待を受けていました。

また、彼は後々100着を超える長いレインコート(マトリックスの衣装のような感じのもの)を収集し、普段からそれを着用するようになりますが、それは彼が第二次世界大戦の頃にオランダを占領したナチスのゲシュタポから受けた酷い暴力からのトラウマだったと言われています。会場ではなんとそのレインコートも10着程展示されており、遠くから見たら黒い亡霊が沢山浮いているみたいで、結構ギョッとしました。



©Museum Dr. GuislainPhoto by Guido Suykens, Ghent

ヴィレムは広告代理店で彼の特技を活かしたこともありましたが、スケジュールや締切を守ることが難しく解雇されました。その後偏執症を患い、幻聴が聞こえるようになっていきましたが、彼の作品は様々なギャラリーで展示・販売されるようになり、価格は上がっていきました。1997年に制作をやめるまで、おおよそ100点の作品を世に残しました。



©Museum Dr. GuislainPhoto by Guido Suykens, Ghent


上の作品はロービジョン36号の表紙になった作品です。この号やロービジョンをご購入されたい方には、是非ブライアント・マクニール(Bryant Mcneil) さんのお店をオススメします。間違いなく、日本で最も適正かつ良心的な値段でロービジョンを購入をできるサイトです。


 


©Museum Dr. Guislain, Photo by Guido Suykens, Ghent

 


©Museum Dr. Guislain, Photo by Guido Suykens, Ghent
 
 

■ ラルフ・ファサネラ (Ralph Fasanella) (1914-1997)


©Museum Dr. Guislain


ニューヨークに生まれ育ったラルフは「Social Reality(社会的実在性)」を描写する画家として知られ、労働階級に生きた生粋のニューヨーカーでした。労働者の権利を訴え、アンチファシズムの活動家であった母親と工場労働環境の影響で、ラルフの描く作品は社会運動の扇動ツールとなりました。



©Museum Dr. Guislain


カラフルで楽しげな作品ですが、よくみると、階級化され、操作された社会への問題提起に溢れています。ギャラリーでもエキシビジョンを開催されたりと活躍したラルフですが、そういった労働組合運動に基づいた社会性の強い作品だったこともあり、マッカーシー時代の最中には左翼としてブラックリストに名前を載せられてしまい、ギャラリーで展示することはできなくなりました。ラルフが再び注目されたのはニューヨーク・マガジン紙のカバーとして作品を取り上げられたことがきっかけでした。

 



©Museum Dr. Guislain

ニューヨークを描いた作品の前で、作業服に身を包んだラルフ

 

 


©Museum Dr. Guislain

ビルが立ち並ぶニューヨークシティ

  

©Museum Dr. Guislain
緻密に書き込まれた作品


展示の壁に印刷されていたラルフの言葉。

Remember Who You Are
Remember Where You Came From
Don't Forget the Past
Change the World
-Ralph Fasanella
 
思い出そう、自分は誰なのか
思い出そう、自分はどこからきたのか
「過去」を忘れないで
世界を変えよう
 

 

知れば知るほど奥の深いこういったアーティストの作品。その時の自分の習熟度や物の見方で驚くべき発見があります。どうしてこの絵が好きなんだろうと、深く深く考え続けていると、何かわかるかも・・・・?壁に書かれていた言葉と作品を見て、この作家が「社会運動」をするもっとその深い背景まで理解していたことを感じました。